真空の期待値

微積分を用いた高校物理教程

ばね振り子の運動

単振動する物体の代表例としてばね振り子があげられる。ばね振り子の運動を理解することは微積物理において非常に重要なことだ。というのも、多くの物理現象は何かしらの意味で振動するので、ばね振り子のアナロジーを使うことができるからだ。この先、電磁気学や電子回路、熱力学、波動などの単元に触れることになるが、どの単元においても少し応用を利かせるとばね振り子のような単振動が出てくる。そこで、まずはばね振り子を用いて単振動に慣れておこう。

ばね振り子の設定

自然長の位置にあるばね振り子

上図は、ばね定数  k のばねの先に質量  m の小球がついている様子を描いたものだ。このようなばねと小球の組み合わせをばね振り子という。

小球の位置を x で表そう。床の摩擦は無視する。ばねに復元力がかからない位置、すなわち自然長の位置に小球を置いておくと何が起こるかーーもちろん何も運動しない。この状態で小球もばねも静止している。x 軸の原点をこの位置に取り、右方向を正にとることにしよう。

この小球を少しだけ右に( x が正の方向に)  x_0 だけ引っ張ることにする。そして手を離す。

ばね振り子の初期設定

するとどうなるかーー今度は左方向に動き始める。そして  -x_0 の位置まで行って、また右に運動する。この動きを永久に繰り返すのだ。これが単振動の基本的な運動である。

この運動を調べてみよう。小球にかかる力を  F としたとき、ばねの復元力は小球の自然長からの変位に比例する大きさで反対方向の力になる。これを式で書くと、

\begin{equation} F = -kx \end{equation}

数学的処理

運動方程式を解く

ニュートン運動方程式は次のような形だった。

\begin{equation} ma = F \end{equation}

 a は小球の加速度を表す。代入すると、

\begin{equation} ma = -kx \end{equation}

となる。これが単振動の運動方程式だ。

「単振動の基礎」でやったように、議論を進めていこう。

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加速度とは、変位の時間による二階微分であった。すなわち、

\begin{equation} a = \ddot{x} \end{equation}

これをつかうと、先ほどの運動方程式

\begin{equation} m \ddot{x} = -kx \end{equation}

微分方程式の形で書くことができる。

この方程式を解くためにもう一工夫してみる。両辺を  m で割って  \omega ^2 = k/m なる記号を導入しよう。二乗になっているのは、のちの式を楽にするための工夫である。この表記を使うと先ほどの微分方程式は、

\begin{equation} \ddot{x} = -\omega ^2 x \end{equation}

と書ける。あるいはライプニッツの記法を用いて、

\begin{equation} \frac{d ^2x}{dt ^2} = -\omega ^2 x \end{equation}

と書いてもよい。

微分方程式の解

この微分方程式を解いていく。解き方は特性方程式を用いる方法にしよう。

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解はどうせ  \exp(t) のような形をしているのだから、微分方程式 x_s = \exp(st) を代入してみる。二階微分すると  s が2つ前に出てくるから、特性方程式とその解は、

\begin{equation} s ^2 = -\omega ^2 \therefore s= i\omega \end{equation}

よって  \exp(i\omega t), \exp(-i \omega t) が基本的な解であることが分かった。そこでこれらの定数倍と和をとると

\begin{equation} x(t) = C_1 \exp(i\omega t) + C_2 \exp(-i \omega t) \end{equation}

となる。ここでオイラーの公式

\begin{equation} \exp(it) = \cos t + i\sin t \end{equation}

を用いて整理すると、

\begin{equation} x(t) = (C_1 + C_2) \cos \omega t + i(C_1-C_2) \sin \omega t \end{equation}

 C=C_1+ C_2, D=i(C_1-C_2) と置きなおすと、

\begin{equation} x(t) = C \cos \omega t + D \sin \omega t \end{equation}

となる。これでもいいのだが、三角関数の合成を用いて整理しなおすと、

\begin{equation} x(t) = A \sin (\omega t + \delta) \end{equation}

となって見やすい解を得た。

物理的考察

微分方程式を解くだけでは物理にならない。次にこの解がどのような振る舞いをするかについて考察していこう。

定数の決定

式に書かれている  A とか  \delta がそのままだと、具体的な運動が把握できない。今回のばね振り子の設定に従ってこの定数を決定しよう。

先に  A から片づける。これは振幅と呼ばれ、ばね振り子が原点から最も離れる距離を表している。今回の設定の場合、小球は  [-x_0,x_0]の間を運動するから、振幅は  x_0 である。 \begin{equation} x(t) = x_0 \sin (\omega t + \delta) \end{equation}

次に  \delta だが、これは初期位相と呼ばれ、 t=0 のときに小球がどの位置にいるかを表している。今回の設定の場合、 t=0 で小球は  x_0 の位置にいるのだから、 \sin \delta = 1 でなければならない。この  \delta ( -\pi, \pi] の中から選ぶとすると、サインが 1 になるような  \delta \pi/2 しかない。

\begin{equation} x(t) = x_0 \sin (\omega t + \frac{\pi}{2}) \end{equation}

このままだと少々気持ち悪い。三角関数の公式  \sin(x + \frac{\pi}{2}) = \cos x を用いて変形すると、

\begin{equation} x(t) = x_0 \cos \omega t \end{equation}

となってすっきりした。この函数が小球の位置を記述することになる。

振動の周期と振動数・角振動数

それぞれの定義

この小球が最初の位置から行って帰ってくるまで何秒かかるだろうか? これは  t>0 において  x(T) = x_0 となる最初の  T を見つけることで判明する。右辺は三角関数だから、小球が行って帰って戻ってくる時刻とは  \omega t = 2\pi を満たすときであることがわかる。よって

\begin{equation} T = \frac{2\pi}{\omega} \end{equation}

と置くと、 t= T のときに  x(T) = x_0 \cos \omega T = x_0 となって条件を満たす。

このような  T を振動の周期という。

この問題を反対にとらえて、1秒間に小球が何回行ったり来たりするだろうか? と考えることもできる。(もしかしたら1秒後にまだ向かい側にいて、一周もしていないかもしれない。この場合は"0.5回"ととらえることにする。)これは周期  T を用いて定義することができる。すなわち

\begin{equation} 周期がT \leftrightarrow 一周するのに T 秒かかった \leftrightarrow 1秒間に 1/T 周していることになる \end{equation}

という考察から、1秒間に行ったり来たりしている回数は  1/T と書ける。これを振動数と呼び、一般に記号  f が用いられる。

周期・振動数・角振動数の関係

この三者には明確な相互関係がある。まず振動数と周期の間には、定義から

\begin{equation} f =\frac{1}{T} \end{equation}

が言える。すると、 \omega と周期・振動数の関係は、

\begin{equation} \omega = \frac{2\pi}{T} = 2 \pi f \end{equation}

であることがわかる。特に、

\begin{equation} fT = 1,\quad \omega T = 2\pi \end{equation}

の関係が成り立つ。計算の際にときどきこれを使って簡略化することがある。

いままで特に説明もなく、ただ微分方程式を解くためだけに出てきた  \omega であるが、これにも角振動数という名前がついている。これは三角関数を念頭に定義された振動数の亜種である。今のところ、振動数  f のほうが意味が明確で使いやすそうにみえるのだが、二つの理由で  \omega が好まれる。一つは、三角関数の表記がすっきりすることだ。例えば  \sin \omega t f を用いて書き換えると、

\begin{equation} \sin 2\pi ft \end{equation}

のような形になる。 \omega を使うと余計な  2\pi を書く必要がなくなる。

ただ、実はそれだけではない。単振動について学び終えたのちに後述するので今は流してもらって構わないが、実は単振動は円運動との間に切っても切れない関係がある。その際に円運動の角速度  \omega と単振動の角振動数  \omega は完全に対応していることがわかるのだ。そこで、今後も理論の見通しをよくするために角振動数  \omega を使って記述していこう。

運動の様子を理解する

次に運動の様子を見てみよう。そのために、まず速度を把握することが重要である。

速度を計算する

速度は変位  x(t) の時間微分を用いて計算できるので書き下してみよう。

\begin{equation} v(t) = \dot{x} = \omega x_0 \sin \omega t \end{equation}

この式から何がわかるだろうか?

速度が最も速くなる(速度の絶対値が最大になる)のはいつかというと、この函数の形から  \omega t = \frac{\pi}{2}, \frac{3\pi}{2} のときであることがわかる。 t = \frac{\pi}{2\omega} のときの速度を求めると、  v (\frac{\pi}{2 \omega}) = \omega x_0 となることがわかる。

ところで、このままだ少々式が見づらい。周期  T = \frac{2\pi}{\omega} を用いて少しきれいにしよう。

\begin{equation} v_\text{max} = v(\frac{T}{4}) = \omega x_0 \end{equation}

このとき小球はどこにあるだろうか? 変位  x(t) の式に  t= T/4 を代入して確かめてみよう。

\begin{equation} x(\frac{T}{4}) = x_0 \cos \omega \frac{T}{4} = x_0 \cos \frac{\pi}{2} = 0 \end{equation}

ということで、原点にあることがわかった。現在の設定においては自然長位置とも一致する。

逆に速度が0になる点はどこかというと、

\begin{equation} v(t) = \omega x_0 \sin \omega t = 0 \therefore t= 0, \frac{T}{2}, T \end{equation}

\begin{eqnarray} x(0) = x_0 \cos 0 = x_0 \\ x(\frac{T}{2}) = x_0 \cos \omega \frac{T}{2} = -x_0 \\ x(T) = x_0 \cos \omega T = x_0 \end{eqnarray}

となることがわかる。要するに、小球は原点(自然長位置)で最速になり、振幅の位置で速度が0になる。

単振動の基本的な動き

まとめると、

摩擦のない床の上でばね振り子を伸ばして静かに手を離したとき:

  • 手を離した位置が振幅になる
  • 振幅の位置では速度が0になる
  • 原点(自然長位置)では速度が最速になる

ということがわかった。

今回は水平面を滑るばね振り子について考えた。次は鉛直方向に振れるばね振り子について考えよう。

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