真空の期待値

微積分を用いた高校物理教程

固有値問題

固有値問題は物理において頻出する計算である。惑星の運動から量子力学まで、さまざまなところに顔を出す。ここでは固有値問題が解けるようになることを目標とする。

固有値問題とは

様々な行列のうち単位行列 \lambda 倍にあたる行列について考えてみると、この行列は任意のベクトルを定数倍するだけの行列である。

\begin{eqnarray} \begin{bmatrix} \lambda & 0 \\ 0 & \lambda \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 2 \\ 3 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 2 \lambda \\ 3 \lambda \end{bmatrix} \end{eqnarray}

このように(零ベクトルを除く)すべてのベクトルを定数倍するだけの行列は単位行列の定数倍しかない。ではそうでない正方行列  A についてベクトルを定数倍するだけの作用は持たないのだろうか。確かに任意のベクトルを定数倍することはないのだが、ある特定のベクトルに対しては定数倍しかしていないように見えることがある。例えば

\begin{eqnarray} \begin{bmatrix} 3 & 1 \\ 2 & 2 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 4 \\ 4 \end{bmatrix} \end{eqnarray}

は元のベクトルを 4 倍しただけだといえるであろう。

この特別なベクトルを固有ベクトル、定数倍を固有値という。固有値 \lambda, 固有ベクトル x としたとき、次の方程式が成り立つはずだ。

\begin{equation} A\mathbf{x} = \lambda \mathbf{x} \end{equation}

固有ベクトルに限っては行列  A に対して固有値  \lambda 倍しかされないのだからこの方程式がなりたつ。この方程式を解けば、固有値固有ベクトルが求まるはずだ。このように、ある行列の固有値固有ベクトルを求める問題を固有値問題という。

先ほどの方程式を次のように変形する。

\begin{eqnarray} A\mathbf{x} = \lambda \mathbf{x} \cr A\mathbf{x} - \lambda \mathbf{x} = 0 \cr (A - \lambda I)\mathbf{x} = 0 \end{eqnarray}

ここで  I単位行列

\begin{eqnarray} I = \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \end{eqnarray}

とした。

三行目に着目すると、行列  A - \lambda I \mathbf{x} を零ベクトルにつぶす作用がある。このような行列は零行列である可能性もあるが、それだとつまらない。ここでは零行列以外の(つまり非自明な)行列だけを考えたい。

もし行列  A - \lambda I逆行列があったとしよう(このような行列を正則な行列という)。この場合には左からその逆行列をかけることができるから、ベクトル  \mathbf{x} は零ベクトル以外ありえない。これもまたつまらない話だ。

ということで、いま変形した行列  A - \lambda I は零行列ではないし、逆行列も持ってはならない。とすると、この行列の行列式は必然的に0になる。

(注:このあたりの議論は前課程において数Cで扱っていたが、現在の学習指導要領では扱わないことになっている。初見の高校生であっても、のちに丁寧に解説すれば十分に理解できる内容である。近い将来にこの部分を整備するので、いまはそういうものだと思って流してほしい。)

そこで次の方程式が成立する。

\begin{equation} |A - \lambda I| = 0 \end{equation}

この方程式を、行列  A の固有方程式という。固有方程式を解けばすべての固有値がわかるだろう。

では具体的に固有方程式を解いていく。先ほどの行列  A についての固有方程式は、

\begin{eqnarray} A - \lambda I = \begin{vmatrix} 3 - \lambda & 1 \\ 2 & 2 -\lambda \end{vmatrix} \cr =(3 - \lambda)(2 - \lambda) -1 *2 \cr =\lambda ^2 -5 \lambda +4 \cr =(\lambda -1)(\lambda -4) =0 \end{eqnarray}

よって  \lambda = 1,4 が得られた。この固有値を用いて固有ベクトルを探そう。

 \lambda = 1 のとき、

\begin{eqnarray} \begin{bmatrix} 2 & 1 \\ 2 & 1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x_1 \\ x_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \\ 0 \end{bmatrix} \end{eqnarray}

となるようなベクトルがあるはずだ。これは実際に左辺を計算すると

\begin{eqnarray} \begin{bmatrix} 2 x_1 + x_2 \\ 2 x_1 + x_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \\ 0 \end{bmatrix} \end{eqnarray}

となるので、この方程式を満たすような  x_1, x_2 を一つ探せばよい。

実はこのような組み合わせは無数にある。正確にいうと、  x_1, x_2 をそれぞれ定数倍してもこの方程式を満たすからだ。とすると、のちの計算のために最も簡単な形を選ぶのが妥当ということになろう。この場合、固有ベクトル -1, 2 とすればよい。

次に  \lambda = 4 の場合も同様にすればいいのだが、行列の計算を知っている人は解いてみてほしい。知らない人は、解説を挟むので結果だけ見てもらえばいい。この場合結果は  1,1 である。

固有値  \lambda_1 = 1 に対応する固有ベクトル  \mathbf{p_1} = (-1,2) と、固有値  \lambda_2 = 4 に対応する固有ベクトル  \mathbf{p_2} = (1,1) がわかった。