真空の期待値

微積分を用いた高校物理教程

摩擦力によるばね振り子の減衰振動

ここまでばね振り子の単振動を見てきた。

水平方向のばね振り子はこちら。

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垂直方向のばね振り子はこちら。

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これらの例では物体に働く抵抗力は無視してきた。実際には床の摩擦であったり、流体(空気や水)の抵抗力を受けて振動は次第に小さくなり、最終的に運動が停止する。現実にみられる運動に近いのはこちらのほうだろう。いよいよ現実に近い運動を分析することができる。

それだけではない。ここで出てくる微分方程式は別の単元でもちょくちょく出てくるのだ。その意味で、ここで学んだことは非常につぶしがきく。

減衰運動と一口にいってもいくつかの種類がある。ここでは一定の抵抗力を常に受け続けるタイプ(動摩擦力)を扱うことにする。次回以降、速度に比例する抵抗力(流体抵抗)を扱っていく。

摩擦力を受けた減衰振動の設定

床から受ける摩擦力

床から受ける摩擦力が無視できない場合、ばね振り子の運動は減衰する。ここで小球は垂直抗力に比例する動摩擦力  f の影響を受けるものとする。(静止摩擦力は動摩擦力より大きいのが通常だが、今回は同じ大きさとする)。

この場合、動摩擦力は次の式で表すことができる。

\begin{equation} f = \mu N \end{equation}

 \mu は動摩擦係数、  N は小球にかかる垂直抗力である。

では具体的に問題を設定していこう。

摩擦力を受ける水平ばね振り子

摩擦力を受ける水平ばね振り子

小球にかかる力を確認する。

  • 垂直方向:鉛直下向きの重力  mg、鉛直上向きの  N
  • 水平方向:ばねの復元力  -kx、動摩擦力  \mu N

まず垂直方向の力のつり合いから、

\begin{equation} N = mg \end{equation}

すると動摩擦力  f の大きさは、

\begin{equation} |f| = \mu mg \end{equation}

と書けることがわかる。問題は向きで、右向きに動いているときの動摩擦力は左向き、左向きに動いているときの動摩擦力は右向きである。これを表現するために、符号  \mathrm{sgn}(a) を次のように定義する。

\begin{equation} \mathrm{sgn}(a) = \begin{cases} 1 \quad(a>0) \\ 0 \quad(a=0) \\ -1 \quad(a<0) \end{cases} \end{equation}

こうすることで、動摩擦力は向きも含めて次のように書ける。

\begin{equation} f = \mu mg \cdot \mathrm{sgn}(v) \end{equation}

これで役者がそろった。運動方程式は。

\begin{equation} ma = -kx - \mu mg \cdot \mathrm{sgn}(v) \end{equation}

となる。これを解いていこう。

数学的処理

微分方程式を解く

全体を  m で割って、

\begin{equation} \ddot{x} = -\frac{k}{m}x - \mu g \cdot \mathrm{sgn}(\dot{x}) \end{equation}

 \omega ^2 = k/m と定義して、  x に関する式を左辺に集めると、

\begin{equation} \ddot{x} + \omega ^2 x = - \mu g \cdot \mathrm{sgn}(\dot{x}) \end{equation}

この方程式は一筋縄には解けない。まず非斉次の微分方程式であることと、  \dot{x} の符号によって式の形が異なることの二つの悩みがある。符号によって式が変わることについては、仕方がないので場合分けするほかない。まずは速度の向きによる場合分けをしてみよう。

 \dot{x} >0 のとき

このとき解くべき微分方程式は次のようになる。

\begin{equation} \ddot{x} + \omega ^2 x = - \mu g \end{equation}

この方程式の解は、斉次方程式の基本解に右辺を加味した特別解が加わったものと考える。斉次方程式の解はおなじみのこの形だ。

\begin{equation} x(t) = A \sin(\omega t + \delta) \end{equation}

これに特別解  x_p(t) が加わる。といっても右辺は定数であるから、特別解も定数になるはずだ。そこで  x_p(t) = C と置いてもとの微分方程式に代入すると、

\begin{equation} 0 + \omega ^2 C = -mu g \therefore C = -\frac{\mu g}{\omega ^2} \end{equation}

ここで、鉛直方向に伸びたばね振り子を思い出してほしい。重力の影響で釣り合いの位置が  l_0 = \frac{mg}{k} だけ自然長位置からずれていたのだった。ここで  \omega ^2 = k/m を使うと、 C はつぎのように簡単にできる。

\begin{equation} C = -\frac{\mu g}{\omega ^2} = -\frac{\mu mg}{k} = -\mu l_0 \end{equation}

よって一般解は、

\begin{equation} x(t) = A \sin(\omega t + \delta) - \mu l_0 \end{equation}

となる。

ここで出てきた  \mu l_0 は、動摩擦と復元力が釣り合う長さを表している。

 \dot{x}< 0のとき

このとき解くべき微分方程式は次のようになる。

\begin{equation} \ddot{x} + \omega ^2 x = \mu g \end{equation}

よくみると右の定数項が符号を変えただけになっている。ということは基本解は同じで、特別解の符号が変わるだけだということができる。よって一般解は、

\begin{equation} x(t) = A \sin(\omega t + \delta) + \mu l_0 \end{equation}

となる。

物理的考察

定数を決定する

この解は、半周期ごとに振幅を小さくしながらいずれ止まる。すなわち、半周期ごとに解を接続しなければならない。そこで、具体的な初期条件を設定して一歩ずつ考えていく必要がある。

まず最初の半周期は簡単だ。手を離した位置を  x_0=l とすると、例によって

\begin{equation} x(t) = (l - \mu l_0) \cos(\omega t) + \mu l_0 \quad (0<t<T/2) \end{equation}

が得られる。

次の解は、初期位置  x_1 = -l + 2 \mu l_0 から始まるのだが、釣り合いの位置は  x = - \mu l_0 に変わるので、振幅は  A = l - 3\mu l_0 となる。よって

\begin{equation} x(t) = (l - 3\mu l_0) \cos(\omega t) - \mu l_0 \quad (T/2<t<T) \end{equation}

さらに次の解は、初期位置  x_2 = l - 4 \mu l_0 から始まるのだが、釣り合いの位置は  x = + \mu l_0 に変わるので、振幅は A = l - 5\mu l_0 となって

\begin{equation} x(t) = (l - 5\mu l_0) \cos(\omega t) + \mu l_0 \quad (T<t<3T/2) \end{equation}

このようにどんどん振幅が小さくなっていく。

振動はいつ止まるのか?

止まるパターンは2つある。ひとつは端点で速度がゼロになったとき、復元力が静止摩擦力に負けて動かなくなるパターン。もうひとつは運動中であっても復元力が動摩擦力に負けて動かなくなるパターンだ。

今回は後者を扱う。

運動中であっても復元力が動摩擦力に負けて動かなくなるということは、次の式が成り立つ。

\begin{equation} kx \leq \mu mg \end{equation}

等号が成り立つ条件を見たい。  k で割って整理すると、次のようになる。

\begin{equation} x = \mu \frac{mg}{k} = \mu l_0 \end{equation}

これが釣り合いの位置である。運動中のすべての  x で釣り合いの位置より内側に入っているとき、もはや復元力より動摩擦力のほうが大きいので運動は静止する。